運動会。望遠レンズを付けた一眼レフのカメラを持っている。
しかし、長男を見つけられず、見つけた時には 電池切れフィルム
切れに気付く。結局、クラスの応援看板しか撮れなかったようだ。

コーディロイのズボンはユニクロに見えるが、バーバリーだと言う。
履いている靴はフェラガモらしいが、とてもそうは見えない。
会う度に、女子大生アサコのブランド信仰を粉々にした。

幼い頃、床屋に行った彼女は「坊ちゃん刈り」で帰ってきた。
ズボンを履いているからって、間違うなんてあんまりだ と母親が
嘆いたが、本人は 後ろが見えないから平然としていた。

深緑色のカデットという車で現れたことがあった。私は、世の中に
こんな野暮ったい外車があったことに驚いた。しかも、故障すると
道端に置いて さっさとタクシーで帰る、その神経にも驚く。

バザーに出すのも憚られるモノをくれる、私の誕生日に。いったい
何年つきあえば、好みが分かるのだろう。書き上げると 枚挙に
いとまがない。これらはすべて、私の妹のことだ。

全神経をアンテナにして、見るモノ聞くモノ 吸収しなければと
常日頃 自分に課している私だが、彼女に会うとリセットされる。
力が抜ける。こんな性質でも生きていけるんだ・・・。

稲刈りのコンバインの音が、遠く聞こえた鰯雲の下。紗を掛けたよ
うな朱色の落陽に染まるまで、縁側で 何を話していたのだろう。
姉妹で育った歳月は、時間がゆっくり流れていた記憶があるだけだ。

今となっては、その頃の私に 瞬時に戻してくれる妹が、
「私の実家」なのだと思う。

2003.0928