小春日和のある日、私の義理の弟で 中学の同級生でもあるMは、
甲賀の山中を、イギリスの車MGで ゆっくりと走っていた。
虫干しのようなツーリングは、枯淡の趣がある。
用あって、彼の家へ行く。久しぶりに車庫を覗いた。
フツウはMGBだが、MGCになっているのは なぜ?と聞くと、
「本来はエンジンが1800だけれど、3000だから」と答えた。
ボンネットが膨らんでいるのは、そのせいだ。
スゴク走るけれど、コーナーは曲がれないと彼は言った。
去年の暮れ、一目惚れして買ったトライアンフも同様に、通常より
大きいエンジンで、クーラーも付けたらしい。お正月以外 調子が
悪くて、家より 修理工場に置いてある方が永いと言う。
他の車は入れ替わっても、昔からあるフィアット500。軽トラに
負けたのがイヤだったからと、これもエンジンを650にしてある。
規定外の大きさに、後ろのボンネットのフタが閉まらない。
彼の車に対する情熱と知識と年数と、今までに費やした金額は、
到底私の知る範囲でない。というか、ほとんど私に知識は無い。
しかし、一寸の虫にも五分の美学が、これらを『邪道』と判断した。
車の形状を変えてまで、何故大きなエンジンが必要なのか 解せぬ。
帰り際、彼の好きな フィアット500のどこが好き?と聞いた。
「一番運転しにくくて、性能の悪いところ。」と答えた。
ニクイこと言うじゃん。
今や 会社のクラウンで通勤する立場になったけど、ホンダS600に
乗っていた18才の頃の彼が そこに居た。
2004.0228