「ミゼットって知ってる?」「知ってる。三輪の」「へへっ」
正午過ぎ、専務の誘いで琵琶湖大橋近くのシダーガレージの車やに
着いた。駐車場のMGCを見た瞬間、義理の弟が唆したのだと思っ
た。奥のレストランから弟が姿を現す。やっぱりね!
MG MIDJET を初めて見るが、左ハンドルのミッション車はまるで
私のためにあるようだ。「そうそう」と専務は頷く。自分が手に入
れたいくせに君にふさわしいと薦めるから少し同調したまでだ。
「ミジェットと聞いてダイハツを思い浮かべるあたり、さすがオネ
エチャンは違うなぁ」と弟が言う。バカにしてるのか褒めてるのか
よくわからない。専務には耳元で「一緒に走ろう」と囁いている。
常連の彼は沖縄料理も美味しいと薦めたが、ペペロンチーノにする。
フランス車好きのコモリ君は、焼き栗メタリックみたいな色のシト
ロエンを買い逃して大層悔しがった。白や青を基調にした色しか輸
入されない中、いかにもフランスらしい色だったと言うのだ。同じ
ようにこの”絵の具のようなグレー”も、日本車には無い色合いだ。
オレンジのスカーフを頭に被りサングラスをかけると似合うかな。
と言いながら振り向くと、専務は喜色満面・イキイキとした顔つき
になっている。会社でも毎日こんな顔で居てもらいたいものだ。
オーナーの車なので程度も良く予想以上に低価格だ。だがオモチャ
にしては高い。無心する親戚は困るというが、一般の家庭にこのよ
うな誘いも甚だ迷惑なことだ。
それに、車種は知らないけれど私の好きなオープンカーってこんな
感じだもん。「さあ帰ろう」と私は勢いよく立ち上がった。
2004.0428