朝9時、『観月茶会』のため石山寺の山門をくぐる。単衣のきもの
を着た20名に、名残惜しそうな蝉の声が降り注いでいる。
石山寺は、参籠していた紫式部が西暦1004年の8月15日に「今宵は
十五夜なりけり」と源氏物語の須磨の巻を書き始めたと謂われる。
「お茶の世界では私は(還暦)まだ子供です」と先生が言った通り
83才の大先生以下、続々とお見えになる方々は敬老会のようである。
最後の練習日に皆に向い「あとはくそ度胸だけです!」と先生らし
からぬハッパを掛けられた。お正客は毎回、凛とした方ばかりだ。
乾漆の筒に白いほととぎすと白萩。香合は石山寺の古材。蓋の大半
を占める大きな月の蒔絵の平棗の上に、「指月」と名のある茶杓を
置く。かい先を下ろす時に、やはり緊張して少し震えてしまった。
26人がお手前と案内の二手に分かれてひっきりなしに動く。「千と
千尋の神隠し」で、”顔なし”が来た時の料理を運ぶ女中のようだ。
二時を過ぎる頃、女中頭の足が止まった。「あちらに居る方たちを
お連れして」と下に言う。私も五時過ぎには、17才に仕事を振った。
お昼はご飯と漬物だけのお弁当だったので、何かの手違いとMさん
はおかずを探しに行った。ヒマが無いのだから仕方がない。だが、
夕飯もおにぎり二個。餅と団子や饅頭のおやつでは、哀しくなった。
着替えを終えた頃、携帯電話がeメールを受信した。”高速道路を
200km/hでミュンヘンに向かっています。回りは一面ぶどう畑です。”
とある。海外からも届くの!? 掌に、時空を閉じこめた気がした。
夜8時、虫の声を聴きつつ山門へ向かう。空を仰ぐと、澄んだ夜空
の高い位置に満月が見えた。瀬田川にゆるく月光が流れている。
2005.0918