並川先生から音楽会のお誘いがあった。「全曲ベートーヴェンです
かぁ・・・」あまりにも懸け離れた趣味に、少し躊躇する。
が、先生と一緒というだけで楽しいから行くことにした。「世界的
に有名なドイツのザイラー夫妻だって。」私同様、皆の反応は無い。
春秋の音楽会の日だけ、JR急行が胡麻駅に止まる。京都駅から
約50分。田んぼの多い風光明媚な田舎だ。遠くへ来た気はしない。
先生とご夫妻は永いお付き合いなので、開演前にご自宅でお茶をい
ただく。鴨居と天井の間の壁をフレスコ画にされているのは面白い。
手拭いで頭を包む”頬かむり”のご近所の方々を、「皇居奉仕の人
達みたい。他で見ないよねぇ」と、先生の東京のお友達は珍しげだ。
演奏会場は、福井県の茅葺きの禅寺を移築した『かやぶき音楽堂』。
2・3階は天井桟敷になっていた。積んである茅をソファの背に
して深々と沈み込んでいる人を見ると、特等席のようにみえる。
ベートーヴェンは堅くるしいイメージしか無かったけれど、優しい
春風や恋の初めを連想する曲もあるのですね。
「むかし彼は一曲を5万円から10万円で作曲してたのに、最近発見
された譜面は、サザビーのセリで100万ポンドで落札されました。」
ザイラーさんの解説後、昨年話題になった曲”大フーガOp134”
カズコさんは演奏される横顔が凛々しく、絵になる方だと思う。
休憩にケーキとハーブティ・花泡香(日本酒)が振る舞われ、サ
ロンのような雰囲気になった。帰りには”おにぎり”をいただく。
300名近くが去った後、音楽家の肖像画と仏像画などで渾然とした
お堂の中を、竹林の向こうから来る翠の風が吹き抜けて行った。
2006.0608