長男が小学4年生の時のバレンタインデーだった。家にふたりの女
の子が尋ねてきた。よその小学生だ、見覚えのない子達だから。大
柄な子と細く背の低い子。手にはそれぞれリコーダーを持っている。
長男は遊びに行って居ないと言うと、チョコレートを渡して帰って
行った。それからすぐ、近くの公園から笛の音が聞こえてきた。
戸口に出ると、時おり薄陽の射す曇り空があった。
曲名は分からないけれど、一人で聞いているのがもったいないほど
上手だった。半紙に菓子を包んであげようかと思いつくが、お神楽
のお礼じゃああるまいしと思い直した。
もし在宅していて目の前で吹かれたら、長男はきっと身の置き所が
無くて困ったに違いない。じっと下を向いていたことだろう。
店先にチョコレートが並ぶ頃になると、彼女たちのくれたあの日の
午後が、爽やかなバレンタインデーの想い出として甦る。
2007.0214