懐かしい人に会いに行った。専務は10年振り、私はそれ以上経つ。
予約を入れる際「Kさんは、まだ包丁を握っていらっしゃいますか
?」と電話口の若い女性に確認した。彼が店を移ると客もついてゆ
くとの噂は聞いていたけれど、作ってなければ行く意味がないもの。
一料理人は、京都で確固たる位置にいらした。
20年程前Kさんが一人で店を出していた頃、最後の客の私たちが帰
ると同時に店を閉め、我が家で二次会をしたらしい。すっかり忘れ
ている。若い頃は社交的だったのだなと思う。
「今日の仕事はもう終わりました」と椅子を持ち込んでやって来た。
連れに板前経験者がいて、沼で採るジュンサイのごみを取り除く修
業時代の話をした。今は大抵、市場のビニール袋入りを買うそうだ。
笑顔のスタッフに見送られ、彼も一緒に”もう一軒”と繰り出した。
近くの店は閉まっていて何だか安心する。店名が店名だもの。
場所を移して、シャンパン。
「あの店で、一升瓶を2本半空けた客は始まって以来です」とKさ
んは切り出した。「あなたが参加してからピッチが上がりましたね」
「アノ上品な店で、あれだけ飲むかぁ?!」と嬉しそうに云う。
彼の大きくて清潔な手は艶々と光っていた。「俺は板場が好きなん
だ。包丁握ってるに決まってんじゃねぇーか。」永く京都に住んで
も関東弁は消えないものだ。
一人平均4合かと計算したが、早々と眠り込んだこの2人がほとん
どを飲んでいたのだろう。少し白髪の交じったKさんの向こうに、
ウチの息子たちと同年のお嬢さんや、奥様にも邂逅した気がする。
2007.0630