妹から、誕生日のお祝いに何かプレゼントしたいとメールがあった。
遠慮していたけれど、再三の申し出に袱紗をもらう事にした。
私の習う先生は”袱紗は無地の赤”という基本に忠実な方なので、
朱色やピンクが混じる色など、微妙な赤の違いを愉しむ程度だ。
そこで妹にはこの旨を書き、『紅色か橙色が希望です』と送る。
『店も、できれば高島屋で買って下さい』ここまで言えば中らずと
いえども遠からずだろう。『わかった。任せて!』の返事があった。
翌日、にこにこと登場。高島屋の薔薇の包みを開くと、クリーム色
の地に紅色と澄色が帯状に入っているものだった。妹は同じ裏千家
でも大阪の先生に習っている。周りは色々お持ちなのだろう。
(と、思いたい。)
いくら暑くても単衣は今月でお終い。もらった袱紗と似た色の紬を
着てお稽古に行くと、Oさんの姿が見えない。
彼女から薪能に誘われているが、場所や時間を知らないのだ。聞け
ば西国巡礼に出ているという。前日は倉敷にいた。間に合うように
帰ると・・・。彼女ほど家に居ない専業主婦を、他に知らない。
伊賀上野城での薪能は、観阿弥・世阿弥が当地出身であるのと、城
主の藤堂家が能の造詣に深かったことから毎年行われている。
能は苦手で狂言の好きなOさんは、大蔵流の”鬼瓦”がお目当てだ。
だが、今年の金春流の”小鍛冶”と観世流の”船弁慶”は、分かり
易い粗筋で、彼女は「初めて能を一度も眠らずに見た」と言う。
舞台の反対側に明るく照った月が上がっている。あと幾日かで満月。
張りのある乾いた小鼓の音が、真っ直ぐ入ってくる。弁慶の結袈裟
の房の緑と、装束の一部分のマゼンタ色の余りの美しさが目に染む。
2007.0922