茶道教室に、隣町から通う母娘がいらした。お嬢さんが結婚されて
アメリカへ行ってしまわれたので、しばしば顔を合わすのはお母様
とだけになっていた。それが、最近とんとお見かけしない。

聞けば、春までお休みされるという。稽古が終わった秋の夜、西に
向いて帰っているはずが見慣れぬ道に。ようやく見つけた看板には
反対方向の三重県柘植の文字があった。心配されたご主人に従って、
冬期は稽古中止にされると。深い霧にでも迷われたのだろうか。

先生は、原因を「狐です」ときっぱりおっしゃるけれど、車を運転
していて化かされることってあるかしら。

「私も経験ありますの!」と先生は続ける。夜更け時、通い慣れた
20分で帰れる道をぐるぐると廻り、やっと家にたどり着けば40分も
かかっていたとおっしゃるのだ。

教室から、私は産業道路を片道1kmもない道のりだけど、先生のお
宅までの道中は民家のない田んぼと山道だからか・・・。


年末は日数の加減で別クラスと合同だ。今夜は、初めてお目にかか
る女性3名と一緒になった。皆、私より6,7才年上とお見受けする。

主菓子は『きみしぐれ』。ロマンチックな響きだが由来は卵の黄身
だと隣の方はおっしゃる。行燈の灯りは黄色と判別しにくい暗さだ。

しぐれと云えば”時雨 紅葉を洗う”の掛け軸は好きだったなぁ。


「障子を開けてください」という声でハッとする。炉端にいる私が
眠くなった様子を見て、CO中毒になるのを心配されたようだ。

目覚めたついでに”さらにこのお茶室が消え、化けていた狐たちが
山へ去り、原っぱに一人ぼっちになっても驚かないぞ”と覚悟する。

2007.1221