仏像や仏閣に興味があれば奈良にも足繁く通っただろうが、どうに
も寂れたイメージがして、わざわざ行く気にはなれない処だ。
入江泰吉写真美術館は、靄や霞のかかった美しいだけの大和路でな
く、景色に人物が写っている50’年代のものなら見たいという好み
があり、目的とはならなかった。
長男が幼稚園の時に遠足で「鹿にヤラれた」せいもある。鹿の煎餅
を奪って逃げたために追いかけられ、角で腹を突かれたのだ。
司馬遼太郎の『奈良散歩』を読んだ専務が、二月堂に行きたがった。
関西では”お水取り”が済んだら暖かくなると云われるけれど、雨
雲が去った午後は昨日より気温が10℃以上下がり、まだまだ肌寒い。
少なくとも、親から孫3代のアルバムの中の奈良公園は不変である。
初めて訪れる二月堂。毎年のTV放映はここかと思うくらいで然し
たる感慨は無いが、今年で1257年!続いている事実には圧倒された。
確固とした背骨を持つ誇りが、携わる人の勁さになっていると思う。
焼け焦げの残る松明の杉葉を、厄除けの御守りに頂戴した。
家に帰ってパラパラと『奈良散歩』を読むうちに、永年心に留めて
いた上司海雲の名を発見する。今東光が人柄と文や書を褒め称えた
人だ。著書の引用文があり、遂に待ちこがれた人と邂逅した気持ち!
生を東大寺の一塔頭にうけ、僧をにくみ寺と親鸞をきらったのに東
大寺の別当にまでなった!?その立場で公言して憚らないとは・・。
抗えない運命と自分にどうやって折り合いをつけたのか。それを許
容した華厳宗って?尽きぬ驚きが、深夜までパソコンに向かわせた。
俄然、奈良は魅惑的な存在となる。
2008.0320