今日の先生はきもの姿に気合いが入っている。

一つ紋の濃い緑色の無地に、銀の刺繍入りの白の帯が映えているも
の。お一日は家元の稽古日なので、昼間は京都へ行っていらしたの
だ。こっくりとした深い色となめらかな絹地は、目に美しい。

次に床の白い花に目を奪われた。特に好みの一重の方は、白やまぶ
きらしい。そこで先生は太田道灌の話をしてくださった。
  
雨の降る中、ある一軒家に蓑を借りに行くと、少女がやまぶきの枝
を差し出した。”七重八重花は咲けども山吹の(実)みのひとつだ
になきぞかなしき”から、一つも無い事を蓑と実のをかけて伝えた
と・・・。私はこういう何の益にもならぬ話を聞くのが好きだ。 

でも、実のならない黄色と違って、白やまぶきは黒い実をいっぱい
付けるのですよ。植えるなら差し上げましょうとおっしゃった。


次々と生徒が帰り、先生と二人になった。「良い機会です!徹底的
に茶箱をしましょう」と意気込まれる。

箱に入った一回り小さな道具を、出して点て了うという私の苦手な
稽古だ。先生の目の届かない処でいい加減にしていたのを、先刻お
見通しだったのか。ちまちまと没頭して『雪』と『花』をヤル。

飲み干される時に、両袖口から花の地模様のあるピンク色の襦袢が、
細く見えた。木々の合間に残る山桜を連想する。
    
それから広間の風炉で濃茶。やっぱりこっちの方が好きだな。片づ
けの方がみえたので、お二人分を点てる。練りやすい量だ。

お茶勺のご銘は、「惜春」と答える。「一気に夏日になりましたも
のねぇ」と先生は幾度も頷かれた。

2008.0501