何年か前の、東京から帰る新幹線の車中。
隣の席の60歳代の紳士と私は、発車と同時に駅弁を開けた。

午後7時を過ぎていたせいか。通路から見渡す限り、遅い夕食をと
るのは私たちだけで、その2人が隣合わせに座る偶然!

これをたいそうな発見のように、私は思わず話しかけてしまった。

ひとりで妻籠に住むお母さんの元へ、毎月第一週末に帰省している。
名古屋で乗り換え家に着く頃は夜中だから、今、食べるのだ。それ
を20年ほども続けている、というようなことを話された。

「ところで、東京はどの街がお好きですか?」とお尋ねになった。
「銀座」と即答すると、どのような点が?と聞かれる。  

碁盤の目になってるから迷子にならない。舗道が綺麗。色々な店が
揃っている。歴史がある。怪しげな店がある。画廊も多い・・・。

紳士は一々肯いて、嬉しそうな顔をされた。

「いえ、私の会社は銀座にありましてね・・・。そう言っていただ
けるとうれしいですねぇ。イヤ、もう古いビルですよ・・・」


銀座1丁目にある取引先が、先ごろ地下にBarをオープンされた。
壁には、この店の看板である『紀州備長炭』を飾られている。

入ってすぐ眼に入った革張りのターコイズブルーの椅子に、気品あ
る華やかさを感じた。静かな居心地の良さ。
 
縁にステッチの入ったコの字型の黒い革張りカウンターの中には、
慎ましやかに控えめに切り盛りしているバーテンダーが1人きり。

このあと俗な店に流れたせいか、あの椅子の美しさが心に残る。


またひとつ、銀座で好きな場所を見つけましたよ。

2008.0617