長男は、ゼミの一泊旅行へ行く集合時間に遅れた。高山市の孤立し
た村の調査に行く予定だった。携帯電話は繋がらない山奥。

僕は今、後を追っている。心配しないでと連絡が入る。秋晴れの天
気。こんな状況は、彼にとって願ってもないワクワク感だと察する。


2年前の夏、長男は山奥の川へ遊びに行った。向こう岸まで歩いて
渡ると、一所に集まっている数人の男性たちは驚いた様子を見せた。

そのうち、サイレンを鳴らした地元の消防団と救急車が到着する。

何事かと思い再び川を戻る途中、すれ違ったレスキュー隊員に「君
は渡れるのか?!」と聞かれたそうだ。(対岸の彼らは救出された)

この喧噪を逃れ、さらに上流へ移動して泳いだところ、おぼれて川
底の岩に背中を何度もぶつけたと傷を撫でながら言うのであった。


またある時、数人とサバイバルゲームと称して山奥へ。険しい道な
き道に脱落していく友。遂に長男はひとりで断崖に登る。素っ裸で。
(着替えが無かったことによるらしい)

太い蔓をよじ登り、ようやく辿り着いた所には田園と村が!長男は
日本地図に無い未発見の部族と思って、感動で躰が震えたと言う。


そんな彼だ。案の定、ヒッチハイクで日が暮れて、偶然目的地行き
の最終バスに拾われ、食事の始まる前に宿に到着したと得意満面だ。

一人暮らしの多い高齢者だけの村。畑で採れる野菜と年金の生活。

お年寄りと話すうち、土地と家を提供するから住まないかとスカウ
トされたらしい。一年位ならそれも良いかなとつぶやいている。


今週末もまた過疎の実態調査に出掛けた。みやげ話に、民族学者の
宮本常一のような見解の片鱗でもあればと期待する。

2008.1026