ボサボサのザンバラ髪、痩身で背の高いYさんは、いつの間にか陶
芸家になっていた。
それも、日本では無名だが海外での評価は高く「ザザビーとクリス
ティで取り扱いのある」「スイスを初め海外の美術館に買い取られ
ることの多い」作家になっていた。
数冊の英語版の美術雑誌には、Yさんの名前がローマ字で大きく紹
介されている。・・・・実物を見て、グレードの高さに圧倒された。
日溜まりのような土色の明るさ。無釉なのに出来る透き通った黄土
色と緑色のビードロの美しさ。岩を削ったような大皿は、中央に溜
まった濃い碧色が大地の創世を想像させて、見飽きない。
『蜻蛉の目』が主面に出来るのも不思議だ。窯の中で回すと言うが、
焼成温度は変化しないのだろうか。熱いのにそんな事が出来るの?
「ふふん、それが秘密なんや。もう飽きたけどな。」不敵な発言。
10年前の作品は、色釉薬をかけたカジュアルな感じのものが多かっ
た。今のは、あたりに何も寄せ付けない存在感と風格がある。
一番の自慢は、”ある有名な作家が何かの受賞時に「尊敬する陶芸
家は?」と聞かれてYさんの名をあげた時、「誰!?」「誰!?」と記
者たちの間でちょっとした騒ぎになった事”のようだ。
「そろそろ帰る」と言うと、「ボクも、もうこんなんでええわ。」
”すっかり自慢し尽くしたので気が済んだ”という意味だ。隠者の
悦びも限界があるようで、私は王様の耳はロバの耳的役割を担った。
「すきっ歯を治したらどうか。親兄弟が歯科医なんだし」と言おう
として止める。芸術家は、作品と風貌のギャップもまた妙味だもの。
-----写真は2005.N.Y.展。最近のは、もっとイイです。-----
2009.0603