数年前、きものに目覚めた私の目標は、『短時間で着る』と『自然
な着こなし』だった。
「習うより、自分で着る回数を重ねた方が上達は早い」と励まされ
て、日曜日とお茶の稽古日ごとに着たものだ。
出来上がりは毎回違った。「どこかの女将さんかと思った」と言わ
れる日もあれば、スーパーで「奥さん、オコシが出てますよ」と注
意される日もあった。特に襟元が決まらない時はがっくりする。
着付けの先生になった友だちが、私の悩みを解決してやろうと言う。
上手に着られないにも関わらず、”金具やゴムを多用する着付けは
美学に反する”と思っている。本当は紐だけで着たい。
理想はほど遠く、コーリンベルトを2本使い、秘伝を教えてもらって
悪戦苦闘の2時間。「なるほど」と思う処が随所にあった。
まだ日射しに熱さが残る日だ。黄蘗(きはだ)色の単衣紬に白い帯
を締めたかったけれど、何より季節感が大切と海老茶色の帯にした。
海老茶と紫色の三鱗模様の襦袢に合わせたのだ。
胴に巻いた補正のタオルでいつもより動きづらいまま、お茶の先生
宅へ向かう。免状をいただいたので『大圓之草』をしなくてはいけ
ない。一番時間のかかるお手前らしい。
久々の稽古。集中力の低下。正座の限界。途中で投げ出したくなる。
何事も道のりは険しいなぁと思う。
稽古が終わって、なめらかで味わい深い濃茶をいただく至福の一時。
お床の籠に活けられたジョウロウウグイスの黄色い花が、まるで貴
婦人のような風情で下を向いている。
2009.0923