19歳の夏のある夜、御在所岳山頂でUFOを見た。クラス全員が見た。

三重県と滋賀県の県境にある御在所岳は急峻な岩壁があり、まわり
は深い渓谷だった。キャンプファイヤーの真っ最中に、突如大きな
円盤状のUFOが頭上に出現したのだ。輝く鋼鉄で数機の編隊だった。

何十名かの悲鳴に似た叫声は、山中を轟かせたに違いない。

それに反応してか、UFOは瞬時に消え、次の瞬間には遙か遠方の上空
に移動していた。

巨大な円盤を下から見上げる恰好は、まるで映画のワンシーンその
ものだった。UFOが視界から消えても、眼下の渓谷の斜面左右に3個
づつの黄緑とオレンジの光りがあったのは誘導灯か。

帰ってしばらくは誰もに吹聴したが、鼻白むムードに圧されて次第
に話す気力を無くした。今となっては歴然たる一夜の出来事に過ぎ
ない。人が信じようが信じまいが・・・。


なのに、ニムラさんたちはどうしても私以外の証言が欲しいらしい。

同窓会で皆に”確かに見た”のサインを貰って来いと言うので、会
食のテーブルに色紙を差し出した。

15人中サインした7人は、道中霧が深かったとかバンガローの毛布は
紺色でその重みの感覚まで細かく覚えているのに対して、見なかっ
た人は登山に行ったことすら、うっすら記憶にある程度だと言う。

ここでも「幻か夢ではないのか」という揶揄と、「あんな出来事を
知らずにいたのか」という驚きの声で、双方かしましかった。


卒業の全体写真が八坂神社の階段だった事などいろいろ思い出した
けど、UFOの記憶だけはセピア色でなく古びてないのが不思議だ。

2009.1011