高層ホテルの窓ガラスに雨飛沫がかかるのを、街のイルミネーショ
ンが照らしている。ジャズクラブから帰る途中、降り出してはいた。

「あの人!」という声に道路を見下ろすと、ヴェトナム笠を被った
両足のない人が、腕と上半身で前進している。前から来るバイクは
避けて走っている。

「助けに行かないとダメじゃないのかな。」と言うけれど、なぜ歩
道を歩かない?しかも、わざわざ水溜まりの真ん中を行く?雨を楽
しんでいるとしか思えないと私は言った。

「あっ、助けられた!」・・・再び窓に駆け寄る。バイクを降りて
話しかける男性、歩道から傘を差し向ける女性。しばらくすると、
二人共立ち去った。ほらね!と勝ち誇ったように言ってしまう。


二村さんに注意されたばかりだった。道で物乞いする車椅子の男性
にお金をあげたのだ。一度ならまだしも、2度会ったからと弁解する。

「そんな事するから自立しないんですよ」二村さんは呆れ顔だ。

日中は仕事してるんじゃないかしらと弁護すると、余計に間違いに
気付く。人の見方に戸惑う、唖然とする、そんな事態に陥りやすい。


他の国の人より日本人は優しいと、ある工場の奥さんが笑顔で言う。
そして、法要のため兄弟が集まって作ったご馳走を、誰より先に私
たちに勧めた。昼食を終えたばかりだと言っても聞かない。

この工場の日本の取引はウチだけなので、”日本人”とは私たちの
ことだ。礼節を以て口に運ぶ。

ヴェトナム人を信用するのかと在ヴェトナム日本人に聞かれた。
どの国であれ最終的には個人と個人のつきあいだと思っている。

2010.1027