こんなに混雑した関西空港は初めてだった。福島県の原発事故のせ
いで帰国する外国人が多いことを知ってはいたが。
ホーチミンに向かう機内で、伊集院静の仙台市での被災日記を読む。
伊集院氏が最も激怒しているのは”まるで映画のよう”という女性
アナウンサーの表現に対してだった。だが、これは文章を生業とす
る作家ゆえの反応と思う。
豊かな表現力と語彙はアナウンサーには必須だろうけれど、一般の
視聴者に、そう違和感はなかったのではないか。なぜなら、皆が口
にする分かり易い表現は既に市民権を得ていると思われるからだ。
これが本来は失礼な物言いであると自覚する人は少ないと思った。
半年ぶりのヴェトナムは、いつもと同じ気温、匂い、花々。屋台の
食事に”帰ってきた感”を覚える。第二の故郷になっているのか。
取引先の工場は、日本のホームセンターの製品が注文中止になり、
被災した店舗数まで把握していて、その情報の早さに驚いた。
ホテルに帰っては原発が心配でNHKを見る。まったく日本に居る
時と変わらない。震災後、うかつにツイート出来ない気持ちになり、
twitter から遠ざかっていることもある。
だが、特に若い世代の人たちの前向きな発言や思いやりに触れると、
日本の未来は捨てたもんじゃないなと感動する日々だ。
私も、自分の”持ち場”の仕事を全うしなければと改めて自覚する。
市内で心惹かれる布に出会った。店の日本人オーナーによると、売
り上げの一部を義捐金にするそうだ。きっとこのストールをする度
に、地震後のこうした諸々の気持ちを思い出すと思う。
2011.0323