今にも飛び出しそうな勢いの、大きな虎を真正面から描いた屏風。
この代表的な1枚は有名だ。
長沢芦雪の展示会ポスターを見て、落款が何故「魚」の文字なのか。
しかも印形の右上が欠けているのはどうしてかを知りたいと思った。
ミホミュージアムは信楽の山奥にあるので、四月下旬にも関わらず
枝垂桜は今が満開だった。駐車場と美術館を行き交う電気自動車の
なかは、風が桜の枝を揺らすたびに小さな歓声が上がった。
丹後に生まれた芦雪は、応挙の弟子となりメキメキと力をつける。
「魚」の朱之氷形印は、”応挙の下で修業をする我を、氷を張った
池中の魚に見立てた。偉大な師の「型」を忠実に学びながらも、大
胆な構図・斬新なクローズアップなど、穏健な師とは対照的な自分
のスタイルを表現するときに氷の一部が欠けた印を使った”という。
芦雪は南紀を旅行しつつ絵を描く幾年かを送る。暖かな気候、風土
に自由な表現はより一層膨らんだに違いない。
和歌山県・無量寺蔵の前出の「虎図襖」や、数点の右上の欠けた印
の絵を見ると、のびのびと描く芦雪を想像して微笑ましくなる。
最後に、天眼鏡(虫めがね)を使っての絵の展示があった。3cm四方
に細かくびっしり描かれた「方寸五百羅漢図」だ。初期から晩年ま
で機知に富んだ芦雪は、エンターテイナーでもある。
江戸時代も後期の18世紀。”見る人の眼に快い刺激を与え、生きる
活力を呼び覚ます”当時の京都の人々が期待したこの効用は、今の
私たちにも必要ではないか。
芦雪は現代にも十分通用する力で、私に活力を与えてくれる。
----------長沢芦雪 奇は新なり---------
MIHO MUSEUM 3/12〜6/5
2011.0424