『めし』という題名の映画なのに、「いただきます」と「ごちそう
さま」を、誰も一度も言わなかったことが最大の印象だ。


甲賀映画祭の、今年は成瀬巳喜男監督特集。そのうちの一作品を見
に行った。林芙美子・原作、監修・川端康成。昭和26年作。

「結婚生活5年が過ぎ、倦怠期を迎えた夫婦。平凡で退屈な男(上原
謙)と所帯やつれした女(原節子)の単調だった二人の暮らしに、
夫の姪が転がり込んでくることから、思いもよらぬ波乱が生じる。」

パンフレットのあらすじと、主役の二人の美形に少し違和感はある。


二十歳の姪は、叔父をからかったり近所の若い男(大泉滉)と遊び
に行って一人で帰ってきたり、頼まれた夕飯作りをせずに寝てしま
ったりと、あきれるほどに”娘ってこんなもんだ”の連続だ。

専業主婦の退屈さにも同情する。子供がいればまだ救われるけれど、
毎日同じ、しかも時間のかかるおさんどんを繰り返して、生きがい
を見つけろというのは酷だ。

嫁いだ娘が帰ってきてひたすら眠る。「眠りたいもんなんだよ」と
優しい眼を向ける母(杉村春子)。三世代の気持ちがすべて手にと
るように分かるのは、年を重ねた醍醐味ではないか。


戦後まもない頃の活気ある街と人々が、随処に映し出される。女は
つましい暮らしに希望を見出し、迎えに来た男と家に戻る。

東京ー大阪間の車窓からの風景は、日本の原風景だ。看板のない田
圃のひろがり。遠くに見える山々。夜なら漆黒の闇。今よりも、灯
りのともる家が暖かく見えただろう。

災害の多い今年、いっそう日本に郷愁を感じる映画だった。

2011.1002