小学生の頃、『永谷園のお茶漬け』のオマケにあった東海道五十三
次の絵のカードを集めるのが、男子の間で流行っていた。

ところが、超レアものなる一枚があって、誰もそれを手にした者は
いなかった。「かんばら〜、かんばら〜」と呪文のように唱えるカ
ツミ君のおかげで、その宿場の名は今も覚えている。


羽織の裏地は、男物が面白い。歌川広重の東海道五十三次を描いた
生地を見た時、この一連の想い出が蘇った。

富士山を後ろに、『白雨の庄野宿』と『七里の渡し口の桑名宿』。
雨の景色は渋すぎるか。

表地は、紬の焦茶の無地。道行コートにするか羽織にするか迷った
挙句、長羽織に仕立てることにした。前から見た時に、きものや帯
で地味さの調整がきくだろう。

「男物の紬は長羽織では重すぎるから、心持ち丈を短くしておいた」
と、仕立て終わっての報告を受ける。83歳のシヲさんは、京都の呉
服屋の仕立てを永くしているベテランだ。その信用をおくシヲさん
の言う事だから、何の心配もないけれど。


袷の襦袢も仕立ててもらった。こちらは明るい色調の、白と桃色の
グラデーションだ。明日の初釜に下ろそうと思っている。そして、
今年は足さばきを大人しくするよう意識したい。私の襦袢の裾は、
着ているうちにたいてい縫い目がほつれるのだ。


初釜では亭主を務める。美味しく濃茶を練り上げたい。炭手前をさ
れるTさんから、グレーのきものにするとメールがあった。それなら
私は淡紅藤色にしよう。Tさんとも焦茶の羽織とも調和するだろう。

2013.0111