14日、定時の午後五時に終わって外に出ると、西尾さんの作業場の
上の東の空に、明るい月と一番星が光っていた。空はまだ青く、日
が長くなったのがわかる。

信楽焼の生地成形をする西尾さんが戸口から出てきて、同じ感想を
おっしゃった。このところ朝の気温は零下だから、生地の乾きも悪
いし凍て割れも心配だが、外の明るいのは心が晴れる。

満月が近いのか月はまん丸に見えて、確か小正月はいつもこんな天
気だったと、小学生の頃を想い出す。

小正月には、家族で百人一首をして、鏡餅で作ったぜんざいを食べ
るという、今思えば“ささやかすぎる愉しみ”があった。

正月に忙しかった母や叔母たちの休みだから、そのウキウキした気
分が子供心に伝わって、幸せな気持ちになった。その想い出は、時
節が巡りくるたび、同じようにほのぼのとさせてくれる。


百人一首を元旦にしたけれど、今一つ盛り上がりに欠けたのは、子
供がいないのと女が少なかったせいだ。むかしの小正月気分に浸ろ
うと妹にメールすると、娘とヴェトナムに出発するところだった。
長女は仕事で、母は用事で出掛けた。忙しくなったね、みんな。

ひとり、お餅を焼きながらタイムスリップ。

よくあんな小さなコタツの上に百枚並べられたものだ。左側に座る
父の大きな艶のある手は、記憶に刷り込まれたまま若々しい。よく
叱られたけれど、遊んでくれる午後のひと時は優しかった。

つつましやかな想い出の中の温かさは、ずっとこの先も、私に贈ら
れる宝物なのだと思う。

2014.0118