1mmの1/10を手触りで判断し、またその薄さに削れる銀細工作家
がいる。型染めの作業所を求めて信楽に引っ越してきた職人がいる。

情熱だけでは通用しない。生み出す作品が売れるかどうかが問われ
る、そんな細き道を歩む彼らに驚いた昨年だった。


先日、色違いの細かなフェアアイル模様のニット帽をかぶった、お
ばあさんと40代前半と思われる女性の二人連れが来られた。

「編み物作家をしています。ギャラリーをされていると聞いたので
…」と若い方の女性が切り出されたので、身構えた。

“編み物”というのは難しい。「どんなオシャレも、野暮ったくさせ
る破壊力」などと揶揄されるシロモノにもなりうるからだ。

写真を拝見すると、懸念していた系ではなく、オーソドックスな柄
や凝った模様で、スタンダードから今流行りの形もある上品な印象
のセーターやジャケット、ベレー帽などだった。

「私は、羊の毛を刈って紡いで、洗って染めてから編むので、ひと
つ仕上げるのに時間がかかります」で、一気に惹き込まれる。

作品の値段はデパートと同じ程度なので、時給にすると五円ほどだ。
日本コリデール(羊の種類)は、日本で飼われている一般的な羊で、
食べると味もイケる。メリノの材質は暖かいが、肉は少し不味い。
メリノ毛糸で編んだこの帽子は、とても軽くて、雨を弾くんです。

珍しい話にすっかりはまってしまい、私も何か欲しいなと思う。

今年11月に京都で展示会が決まっているとの事だ。作品が完売して、
次に展示会をするとしたらいつになるのかと聞くと、「三年後」と
おっしゃった。こんな気の長い話があるのだよ、今どき。

2014.0127