眩しい日差しで暑いほどだった。クルマの空調を冷房に切り替える。

高速道路を下りると、黄色い花のレンギョウと白木蓮が咲く庭木が
見え、大阪は花の開花が滋賀より早いと思う。


和室に入ると、いこった炭と“梅が香”の匂いがした。

庭には、木に赤紫の小さな花がなる鶯神楽、斑入りの葉が珍しい
“金世界”という名の赤い椿、薄いピンク色の“侘助”、黄色い小
花のサンシュユ、紅白の梅。白い木瓜の花が、一斉に咲いている。

桃の花は桜と同じ時期、これからだ。立ち雛の掛軸を見て、旧暦で
暮らしていたならしっくりくるのにと残念に思う。

明るい草色、ピンク色の濃淡の色無地。朱色の江戸小紋。レモン色
の小紋。花束の刺繍の帯を締めた稽古仲間が、順々に来られる。


行之行台子は、五種類の菓子が出る。最初は水物をいただく。
甘酸っぱい露地苺の味が口に広がり、プチプチと春を噛む。

近所から時折、改築中の木槌の音が聞こえる。畳に影が映ったので
外に目をやると、メジロと数羽の雀が空から庭に舞い降りて来た。


今日は釣り茶釜が掛かっている。釣釜の胴は、山々が連なっている
ような意匠だ。あられ模様が、山いっぱいに咲く桜の木々に見える。

何故、釣釜は彼岸過ぎが定番なのでしょう。

一陣の風が部屋に入ってきて、釣釜がわずかに揺れた。なるほど、
亭主も客も、皆が一緒に東風を感じるということか。

茶杓の櫂先に抹茶が多く付くのは、今夜あたり雨が降るのだろう。

柄杓から湯を汲む時に零してしまい、釜肌を伝って落ち、炭がしゅ
んと音をたてた。春に溺れそうになっている自分を戒めた。

2014.0325