山鹿素行所有と伝来の「幾何学文様更紗陣羽織」は素晴らしい。
17世紀時代のインド製の更紗は、まるで宝石のようだ。特に、裾模
様の更紗の茜色は鮮やかで、何度見てもうっとりする。
学芸員の説明によると、茜色は、手紡ぎで手織りの、余程良い布で
ないと、芯まで染まらないという。また、現代の化学染料を持って
しても、もはやこのような深い茜色は出せないらしい。
『手紡ぎインド裂を、茜色に染める』ワークショップに参加した。
“インドの人が行っていた方法を考察、体験してオリジナルの作品
を作る„企画。まず、植物としてのインド茜、日本茜、西洋茜の違
いを、染色のスペシャリスト・角寿子先生から説明を受ける。
名前はインドアカネでも発祥地はヒマラヤなので、当時の生産地の
南インドでは“chay„を使っていたであろうとの見解だ。
“chay„の主な色素のアリザリンと、同じ成分を持つムツバアカネ
を使用する。手紡ぎの布をインドから取り寄せるなど、角先生のネ
ットワークは半端ない。百数十年は経っている木版もお持ちだ。
媒染などの難しい事は聞き流して、木版作業〔木版を布に押す〕→
手描作業〔伸子で張って筆で描く〕→抽出作業〔アカネとダワの花
で抽出液を作る〕ここは主催者側で作業済み→染色作業〔80度に加
熱した液に漬けて、クルクルと布を回し続けて1時間〕をこなす。
洗って絞ると、茜色に染まっていた。これだけでもかなりの時間を
費やすのに、青と黄を足すなら、同じ事をあと二度繰り返すそうだ。
気の遠くなるような手仕事を想像するうち、持っている古い更紗を
帯に仕立てた数本は、後生大事にしようと思う。
MIHO MUSEUM 『江戸の異国万華鏡ー更紗・びいどろ・阿蘭陀』にて
2014.0531