今日は稽古場にSさんが早く来ていらした。
艶のある白地に、弁柄色でフリーハンドで描いたような格子模様の
帯を締めていらっしゃる。何てモダンで素敵な帯だろう。
焦茶のきものに映え、緑色の帯締めは新芽を思わせる鮮やかさだ。
「この帯な、紙子(かみこ)やねん」とおっしゃる。
いつか本で読んだことがあったけど、実際に見るのは初めてだ。
これが和紙で作られているなんて信じ難い。絹のような手触りだ。
『昔、私がお茶を教えていた年寄りが亡くなった時に貰い受けた』
のだそうだ。Sさんが80歳なのだから、いったい何年前の帯だろう。
お軸は雛人形。先生が「75年前のものです」とおっしゃる。3歳で
亡くなられた先生のお姉様の初節句の時のお軸だそうだ。立ち雛の
紅い揃いのきものが床の間を明るく灯している。
先生は、今生では会えなかったお姉様を、毎年この時季に偲んでい
らっしゃるのだなと思った。
稽古は”大円の真”だが、私は基本に戻って“唐物”をさせてもら
った。気を抜かず集中する。静かな時間。外は朝からの雨。
雨音が聴こえる、暖かく居心地の良い穏やかな時間が流れる。
この狭い空間に、3歳の可愛い女の子や、どんな一生を送られたか
洒落たお召し物を身に纏った女性が一堂に会している気がした。
“大円の真”を見学しながらお菓子をいただく。苺・うぐいす餅・
ニッキ味の豆・きんとん。干菓子は『成城石井の手巻納豆』など。
『手巻納豆』が美味しい。「梅田地下でも買えるよ」と話題が沸騰
し俄然賑やかになると、茶室は一気に現世の六人だけになった。
2015.0226