近江小幡人形を版画で表現された田中武さんの展示会を見に行く。

まず最初に目を惹いたのは、竪琴を手にした竹生島の弁天様だ。棟
方志功の版画の女性と似ている。全体に配したピンク色が色っぽい。

次は、干支と童子の版画が並ぶ。柔らかな手描き彩色の墨版と、ク
ッキリ彩色の量産用印刷は、両方とも良さがある。

まさか人魚!?「この近くの観音正寺に、人魚伝説があるんですよ」
と田中さんが教えてくださる。人魚の身体に放射状の光背が放たれ
ている構図に強い生命力を感じて、しばらく見入ってしまった。

私のTwitterのニックネームは“mermaide„だ。琵琶湖の人魚のつ
もりで付けた。ホントに伝説があったなんて、運命的出逢いかな。

これらの小幡人形も飾ってあるが、版画とは全く似ていない。


回廊を曲がると、次のゾーンは小幡人形以外の図案だった。

南方熊楠自身が描いたという曼荼羅は、さすが熊楠と感嘆するほど
独創的だ。菌をモチーフにした台座の上に熊楠が鎮座している。

晩年の鶴見和子から「毎日、あんたの版画の熊楠に向かってお祈り
してるよ」と言われたのが嬉しかったと田中さんはおっしゃった。

私が鶴見和子を読んだのはエッセイや俳句で、熊楠関連の著書では
ない。それでも何だか天上の二人を身近に感じるエピソードだった。

すっかり魅せられ、まずどれを手に入れようかと早くも悩みだす。

最後は、宮澤賢治『二十六夜』の挿絵の版画だった。

賢治全集の校訂者である実弟の清六さんの臨終の日に、最後の三枚
が届いたそうだ。その三枚は偶然にも昇天する場面とのこと・・・。
まるで、賢治が迎えに来たようではないか。

2015.0318