遠くでチェーンソーを使う音がする。いくら気温が高い12月といえ
ど、今頃誰が草を刈ってくれてるのかしら。

より社長室から聞こえるのでドアを開けると、社長がシェーバーを
頬にあてていた。髭剃り用の細かな泡の立つ狐色のブラシが洗面台
にあったのはいつの頃までだったろう。そっとドアを閉める。

そんな事を思い出しても話す暇はない。師走の時の流れは3倍速だ。


体調の悪くなったアルバイトのYさんと入れ替わるように長男が来
たので、店内の大掃除を頼む。それから町内の金融機関を廻ったあ
と求めた陶芸作家さんの干支を飾るように手渡す。

あらかた片付いたところで、来月発売の「東海ウォーカー」の取材
班が到着した。話が終わり部屋に戻ると、先月取材を受けた「滋賀
たび」
の情報誌があった。観光協会の人が届けてくれたらしい。
これを機に来年度から信楽町観光協会に入会すると電話を入れる。


若くして隠居したTさんが夫婦で食事に来てくれた。挨拶もそこそ
こに、駐車場隣の池の鯉がやせ細っているとの忠告を受ける。

2年前の大雨で会社の前の川が氾濫した時、何処からか流れてきた
錦鯉を社員が池に放したきりだ。一匹だから池の何かを食べている
と思っていた。いや本当は池で餌が要るなんて考えてもみなかった。

「ウチの池の錦鯉を見に来い。どれもまるまる太ってるぞ」と自慢
され、薪ストーヴにあたりながら「下刈した木を使うなら、ウチの
山のを全部やるからトラックで取りに来い」とおっしゃる。

ご厚意はありがたいが、行く時間は無いので持って来てほしい旨を
さりげなく言う。鯉の餌は、なるべく早く買いに行こうと思う。

2015.1218