朝4時40分、伊勢神宮内宮の駐車場に到着する。空はまだ暗く、小
雨は止みそうで止まない。「では行きましょうか」と促されて、四
人で参宮案内所まで歩を進めた。

そこには名誉宮司である85歳の上野貞文さんが立っていらした。

上野さんは毎朝5時から神宮にお参りされる。縁遇ってご一緒させ
ていただくのだ。お誘いを受けた時、「行く」と即答したのは神様
に常日ごろの御礼をしたいと思ったからだ。

正装したきもので傘をさしての散歩になったが、車中で「清めの雨
ですね」と聞いた時から雨を清々しく感じる。

空は群青色から明るい灰色に変わり、鳥はかまびすしく啼いている。


皇大神宮の門の中に入れてもらい大きな玉石の上を歩く。足を取ら
れそうなこんな歩きにくい場所が他にあるだろうか。きっと人間の
歩くところじゃないのだ。二拝二拍手一拝を厳かに行う。


別院・荒祭宮で、上野さんが「祝詞をあげるので、私と同じように
傘をささずに頭を垂れ手を合わせて欲しい」とおっしゃった。

皇大神宮は表の神様だが、事を成し遂げるにはこの荒祭宮に参らな
ければいけない旨をお話になる。今まで穏やかに話をされていただ
けに、ここが肝要の場所かと心する。

祝詞は、古事記のように神様の名前と地名がふんだんに出てきた。
永く続いているこの世で、"私は今この時を生きている"を実感した。


風日祈宮で五風十雨の話、神社の始まりの石の話、天照大神の話、
上野さんの言葉は淀みなく続く。空が明るくなった。

霧雨が降り注ぐ山々を見上げながら、宇治橋を渡る。

2016.0418