床の間の壁に掛る濃紺の花入れ。枯れ枝に紅葉が一枚、かろうじて
付いている。これらが硝子で出来ているなんて・・・。硝子の煌め
きが時雨に濡れた一枝に見える。

「この松隠閑雲軒は、隠れキリシタンが使っていたのではないかと
言われています」と硝子作家の大下邦弘さんが解説してくださる。
「壁を遠目に見ると、色の薄い所が十字架に見えるでしょう?」

なるほど、白濁して鈍く光る硝子の塔を蜻蛉が重く背負っているか
に見え、彼らの想いを象徴しているようだ。

次に、茶室(立ち入り禁止)を外から拝見する。

炉の傍に、"満天の夜空"を表現した硝子のつい立。香合は、"遭難し
たトルコ船を海底で発掘すれば、出てくるであろう香瓶"の見立て。
掛け軸は硝子の"天の川"。四畳半を宇宙の広さにしている。

取り合わせの妙で如何様にもみえる、茶室は面白い空間だ。


外に出て、硝子を見ると色の美しさと細工が分かる。大下さんから、
「古田織部のカブキの流れをくむ茶室だから、先日のトークショー
は、あえて紬や大島を着た」という話などを聞く。

彼の作品は並べるよりも、このような歴史的背景にあってより活き
るし、鑑賞した者にとってもより印象に残ると思った。


『松花堂』と聞いて弁当しか思い浮かばなかった松花堂庭園を歩く。

まず、書画・茶の湯・和歌に秀でた松花堂昭乗なる人物がいた事を
知る。昭乗は石清水八幡宮において「江戸初期の華やかな寛永文化」
の綺羅星の如く揃っていた文化人の中心だった記事を読むと、大下
さんの硝子がここで大いに持てはやされているのも頷ける。

ー12/7~17・松花堂庭園茶室『梅隠』にて「侘びのガラス」展ー

2017.1108