朝夕、肌寒い日が続いたのに、いきなり気温が30℃になると天気
予報は伝えた。躊躇なく、紫陽花柄の単を着て行くことにする。
高槻市の先生宅での本稽古日だ。やはり五人中四人が単だった。
茶室には、田植えをするふたりの早乙女を描いた掛軸があった。
墨の濃淡が涼しげで、植えたばかりの苗に風が吹きわたっているよ
うだ。
床花は、真菖蒲にピンク色の可憐な小花の京鹿の子が活けてある。
真菖蒲の花を見たのは初めてだ。端午の節句は、この真菖蒲(サト
イモ科)の葉と花菖蒲(アヤメ科)の花を活けるらしい。
『風炉・行之行台子』の稽古をする。先月『炉・行之行台子』をし
たばかりなので、いつもよりは多少手が動いた。僅かの希望を持つ。
しかし、難しい点前をクリアしてお茶を出すと安堵したのか、前の
稽古の方がおっしゃった濃茶の銘柄が出てこない。
「お茶銘は?」と問われ「キタアカリです」と小さく答えると、K
さんが笑いを殺しあぐねて、とうとう涙を浮かべて笑われた。
『キクムカシ』を耳で聞くのと、『喜久昔』と活字で見るのとでは
覚え方が全く違う。私は活字人間だ。漢字を見ておけば良かった。
『キタアカリ』は、春先に植えたジャガイモの品種だった。
そんな和やかな教室はいつもここにあるけれど、数か月前までご一
緒していたSさんは老人ホームに入られたし、Tさんはケガのため、
Mさんは親の介護で休まれている。
それを思うと寂しいし、また、毎日はかけがえのない時間であるこ
とを再認識する。
2018.0518