「甲賀駅前の百田紙店が5月末で閉店のため、半額セールをしてい
る」と近所の人から聞いた。母が「写経用紙を購入したい」と言う
ので出掛ける。

百田のおばちゃんと何十年ぶりかに会う。といっても向こうは私な
どご存じないだろう。小中高と学校近くに文房具店があったので、
専門的なものを必要とした以外に寄らなかったから。

私は主に会社で使うマジックや両面テープなどを物色した。半額で
も、ノートや封筒はダイソーの方が品揃えが豊富かなとためらう。

個人的には花札を選んだ。旧い方がパッケージの図案が美しい。
「定価500円やから250円」とおばちゃんが言う。手本引きの張札
は、遊び方を知らないし博打仲間もいないのでやめておく。

帰って主人に戦利品を見せびらかしたら、「明日、僕も行こう」と
言った。翌日の夕方、電話が入る。「ヤマハのハーモニカとか木製
そろばんなどにハマってしまってる」と言う。

主人は、根本的に苦労に染まらないというか、持って生まれた自由
な精神を持ち続けている人なんだなと少なからず驚いた。

「誰がハーモニカを吹くのか、誰がそろばんを使うのか」と聞くの
は愚問だと分っている。「よく見つけたね~」と言ったけど、習字
の硯や筆のほうがよほど使い出があるのにと思う。

電話を幸いに、下敷きと鉛筆を頼む。下敷きは粘土を切る道具とし
て、消しゴム付き鉛筆はチェックにと未だ工場では必需品だから。

近頃こうして昭和の店が消えていく。跡取り娘のおばちゃんは淋し
いだろう。紙店の分厚い木製看板は、何代かの歴史を物語っていた。

2018.0528