貰いものの珈琲の缶を開けて、コーヒーを淹れる。思いついて仕舞
ってある小さなカップを取りに行き、仏壇に供えた。

それから、新聞を読みつつ『ミッチのパン工房』のパンを焼いてコ
ーヒーを飲む。すっきりとした後味で美味しい。手に取って缶の銘
柄を確かめると、記憶にある名前だ。「ひょっとするとジャコウ猫
の糞から採る豆だったか」とネットで調べる。

主人に読んで聞かせると、一缶の金額で「馬鹿げている」と口を挟
んだ。自分たちなら買わない値段だった。父が生きていたら"猫の
糞から"と聞いて嫌がったかもしれない。イヤ、珍しいもの好きだ
ったから一口くらいは飲んだかもしれない。

そんなふうに父の記憶をたどるのも、お盆くらいになってしまった。


展示会前後の疲れと連日の猛暑で、待望の二日間の盆休みだった。
お盆の供え物を手伝ったくらいで休養に努めた。あとは読書三昧。

昼間は難しい月旅行の検証、夜はSF小説の『星を継ぐもの』を楽
しみ、魂の半分は宇宙にあった。

アポロは月へ行ったと信じたい。揺らぐ旗、影の位置など細かな事
は不問にしても、私の疑問は「テレビ放映の際、なぜ満天の星が映
らなかったのか」この一点に尽きる。


夏風邪をひいた母の代わりに、家から離れた畑へ野菜を採りに行く。
地生えキュウリ、秋茄子、万願寺唐辛子。手にしたオクラが足元に
落ちたかと思ったら、飛び跳ねたキミドリ色のバッタだった。

日が傾くにしたがい虫の声が大きく聴こえだした。「もう夏は終わ
りました!」と脳内で声が上がる。

2018.0818