「1分間観るのに1時間~3時間待ち」と聞いていた『曜変天目』
の人気。早目に開館していたおかげで、10時前には曜変天目茶碗
の前に立つ。人は疎らで、ゆっくりと拝観することができた。


大徳寺龍光院の小堀月浦住職と、MIHO MUSEUMの熊倉功夫館長
の対談ビデオがたいへん興味深かった。

何故、この曜変天目だけ400年もの間、一つ処に留まっていたのか。
何故、今、公開されたのか。また題名はどのような意味を持つのか。
それらをすべて解き明かしていたので、ずいぶん得心した。

ただ、題名の『国宝曜変天目と破草鞋』は、「希少価値のある垂涎
の下の曜変天目と、誰もが捨てる破れて役に立たない草鞋は、裏腹
の存在でここにある」ということで、臨済宗だけあって、分かって
分からない禅問答のような説明だと思った。


ここで浮き彫りになるのは、開祖の江月宗玩だ。

堺の豪商で茶人でもあった津田宗及(天王寺屋)の次男でありなが
ら仏門に入った江月は優れた禅風と高い教養で知られ、当時の龍光
院は、一流の文化人が集う寛永文化の発信地であったという。

つまり曜変天目を始め実家の天王寺屋の茶道具は仏法に守られたの
で、資産家を巡った他の曜変天目とは一線を画することは分かった。

江月の頂相は、何もかも手に入れ時代の軋轢もすり抜けた、やり手
の実業家にみえる。なのに号を脱落し尽くした意味の『欠伸子』に
したとは、食えないおじさまって感じがする。

曜変天目はきっかけで、江月が空高くから見下ろして何かを問いか
けているようだ。それが意図なら、術中にはまったのもまた面白い。


2019.0518