事の発端は、毎月購読している『ミセス』6月号だった。
料理研究家がバイブルとして紹介している本に見覚えがある。
本棚を調べると、絶版となっている福知千代の料理本は4冊あった。
『煮たきもの あえもの』の(秋ー冬編)と(春ー夏編)で2冊、
『つけもの 常備菜』1冊。『ご飯』1冊。これを参考に、何か作
ったことがあったろうか。
福知千代は精進料理を11年習ったのち京都で料亭『雲月』を始めた
人だ。ネットで調べると、古本で1種類が高額で提示されるのみだ
が、『雲月』は店舗の写真とデパートの進物品が豊富に載っている。
『雲月』には10年以上前の五月晴れの昼に伺ったことがある。白木
のテーブルに、丹精を込めた京料理が菖蒲の葉と共に供された。
そのようなことを思い出しながら、古い本をめくる。
『にしんと小なすのたき合せ』に目が留った。連日、畑で茄子が採
れている。甘めの鰊と生姜の千切りは、さぞ美味しかろう。
日頃、簡易出汁である『千代の一番』を愛用しているので、鰹と昆
布で出汁を作るのは久しぶりだ。
銀色に光る身欠き鰊は一晩水に漬けなくてはいけない。番茶をガー
ゼの袋に入れ鰊と茹でる。茹であがるとそのなかで鰊を洗う。小茄
子は茶筅切りにして素揚げし、ひね生姜はたっぷりと千切りに。絞
った生姜汁も入れ、コトコト弱火で鰊がふっくらとなるよう煮ると。
簡素化に慣れた私には、繊細で心の籠った、時間のかかる芸術品の
ような料理が満載の本だ。とりあえず作ることは念頭におかず、読
み物として全て読破しよう。福知千代はすごい本を残したと思う。
2019.0708