お茶の普通稽古は、ヤマダさんとミヤモトさんといっしょだった。
ミヤモトさんが初釜に来られなかったのは、お父様が亡くなられた
からだ。正月には元気に食事していたのに、急に具合が悪くなり、
100歳の誕生日会の予定が葬式になったとおっしゃった。申し訳な
いけれど、なんだか幸せな出来事を聞いた気になった。
ヤマダさんが茶杓の銘を「ツイナ」と言った。誰もが首を傾げる。
先生が漢字をお聞きになると、「追儺」を説明してくれた。単語は
覚えたが、たぶん私の身には付かないと思う、馴染みがないもの。
節分の日が一日中曇っていたせいか、翌日の暖かで明るい陽射しが
一気に春を思わせた。旧知のお二方が伊勢神宮を参拝し、電車を乗
り継いで夕方お越しになった。一度に80人づつの御祈祷は、記帳し
てから三組目で、とても時間がかかったと話される。正月といい春
節といい活気が戻ったお伊勢さんに、コロナの終焉を感じる。
日曜日も快晴で、日陰に残った雪も溶けた。ランチの時間帯は満席
になるほど賑わう。二年ぶりの知り合いも来てくれて、近況を語り
合うのも細切れになる忙しさだった。
静岡県で600坪の山葵を栽培して二年目のWさんからは電話が入る。
「山葵は植えてから放っておいていいんだよ、農薬は使っちゃダメ
だし」。手間いらずで良いね。「でも、害虫のモンシロチョウがい
っぱい来るんだ。それと鹿避けの網を張ってるよ」とのことだった。
両側が山林の坂道を下る、夕方の帰り路。目の前に、大きな満月の
ような月が輝いて、未だ明るい空にあった。反対側の空は、夕日で
サーモン色に染まっている。旧暦の正月に相応しい情景だなと思う。
2023.0208