恭ちゃんとは、「絵を描くのが好きだけど、人と同じようには描き
たくない。でも、絵を描くきっかけとかコツは教わりたい」という
複雑な思いを持つ点で意気投合していた。
そんな私たちにピッタリの先生が現れた。絵は本来、心の表現です。
受講生が私一人でも東近江市から来てくれるという喜代先生の心意
気に、当然、恭ちゃんを誘った。ついでに店に来た顔みしりにも声
をかける。こうして『だれでも画伯お絵描き教室』が開催された。
恭ちゃんが早速「ヤモリが描きたいの」と言い出すので、喜代先生
は笑い出す。ここはまず、初対面の先生の導入に従うべきだろう。
たっぷり水を含ませた筆に絵具をほんの少し付けて、はがきの上部
にグレーで丸を描く。次ははがきを逆さにしてピンク色で蓮の花び
らを、深緑色は勢いよく筆を走らせて土台を描く。
色絵の上に、細く小さく切った萩の木片に墨汁を付けて、丸二つ、
大円を一つ描く。「大円は丸くね、幼い女の子の顔だから」と先生。
「え~早く言ってよね」「見本を置いてるじゃないですか」。
私も木片の扱いに慣れなくて萎びた楕円になってしまった。大丈夫
!の励ましと笑い。人と同じどころか、見本ともかけ離れた作品が
出来上がっていく。生徒は一生懸命ながらも、愉しくてくつろぐ不
思議な時間を過ごせた。喜代先生の醸し出す雰囲気のおかげだ。
絵の余白には、自分の心から聴こえてくる文字を書いてください。
皆、無言になって言葉をさがす。一通り済んで、恭ちゃんはヤモリ
を描きながら「とても癒されました」。来春、店を開くYさんは、
「不安な気持ちだったのに、勇気が出てきました」と感想を述べた。
2023.1208