十六夜に茶会をしようと決めたのは夏だった。イメージは、月光が
襾囲庵の丸い天窓から差し込み、虫の音が聴こえる静かな夜。
山田浩之さんが「月の周りに明るい星が見えるのは木星・土星・金
星・火星。余興に望遠鏡を持っていこうか」と提案してくれた。
満月の夜は曇っていた。翌日も期待できない。けれど、雨降り茶会
を経験したので、もう右往左往しない境地に達していた。というか、
思案する時間がないほど、陶器祭りで連日店が賑わっていたのだ。
当日、山田さんが小雨を憂えたので、「茶室の宇宙で遊びましょう
!」と励ました。総出で庭掃除とテント張など、清掃と準備をする。
私は畳を拭き、山田浩之作花器"満月坊主"に薄と秋明菊を活けた。
菓子は先日の出張帰りに、京都で老松の"吹き寄せ"と、笹屋良永
の"月あかり"を選び、主菓子は鶴屋吉信の"綾錦"を予約してお
いた。山田浩之作の高台『月と宇宙船』に干菓子をのせる。
まず、魚仙で懐石の夕飯。初めての方もいらしたけれど「淡交会で
お見受けした」「○〇茶会でご一緒だった」と分かって打ち解ける。
六時半から開始。一組目は信楽の二名と、親子三代にわたり茶道を
習う、孫にあたる25歳のMさん。七時半の茶席には、インスタグラ
ムを見て予約された二名様。皆さんに、愉しんでいただけたようだ。
ただ、扉を閉めると暗すぎて菓子の色が分からず、闇鍋みたいと思
う。が、暗さにも何かを見出すことが大切だと山田さんと話す。
八時半。雲が流れて月が煌々と光り出した。群青色の空に星も瞬く。
もう少し早く雨が上がれば、最初のお席の方々にも月を愛でていた
だけたのになぁ。最後のお客様と稽古仲間が、無言で月を見上げる。
2024.1018