先生が、「拝見されてから決めてはいかがですか」とおっしゃった。
能面の引き取り先をお探しだ。能面が左右対称ではないことは知っ
ている。それはたいがいの人間の顔がそうであるように。若干の差
だが、顔の片面が狭かったり、筋肉の付き方に違いがあるものだ。
客席に対して、狭い方の片顔を下に向けると淋しく見え、広い片方
を上に向けると明るく見えるから、一つの面で演じ分けることがで
きるとは何処で読んだ知識だったろう。二村さんに話すと「キティ
ちゃんの顔もそうです、美大で習いました」と言うではないか。
ひとめ見た印象で決めようと思っていた。先生が和室の奥から出し
て来てくださった。緩衝材などを取り払った翁の面は、主人の亡き
父に似ていた。朗らかな印象だ。いただこう。
「次に若女の面もご覧になって」。嫌味は無いが、どうしようかな。
「翁の妹らしいですよ」と先生がおっしゃった。それなら一緒にし
ておかないと、と思う。「では、両方頂戴します」と返事した。
会社に持ち帰って奥田顧問に見せる。「おっ、いいやん!」の一声。
陶器製だった。なら、飾り用だろうかと話し合う。「どちらにせよ、
お正月に相応しい」と顧問は面を茶室"襾囲庵"に取り付けに、私は
玄関先の紅葉の枝を手折ってから、山へ小花を探しに行った。
午後から、顧問が茶を点て、私が半東で、取引先の企業デザイナー
と庭師など四人のお客様を接待することになっているのだ。
歩く速さで、手に持つ枝から紅い葉が散る。花瓶に活け、さらに鋏
で枝を切り落として、三枚の葉を残す。赤銅色の鉄の壁に黄色の葉
が浮かび上がる。抹茶は「四方の薫」、菓子は「忍術最中」。
2024.1218